ビルドンブンコ

趣味で書いた小説を保管する場所

美味しいですよね!(うどん)

「天ぷらうどんで!」

 注文を取りに来た店員に、待ってましたと言わんばかりの勢いで先に注文したのは三原楓。

 何を頼むか全く決めていなかった片塰叶花は「私も同じのを」と告げてメニューを閉じた。

「あれ? もしかして、店員さんに注文するだけで緊張してません?」

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CzTS【5】

「警部、待ってください。彼女は犯人ではありません」

「探偵!」容疑者と目撃者は待っていたかのように声を上げた。

「探偵、悪いが今回は間違いない。こいつが犯人だ」警部は掴んでいた腕を引いて容疑者を探偵に見せつけた。

「いいえ、違います」探偵はゆっくりと首を横に振った。

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CzTS【4】

「今度こそ、お前が犯人だな」久しぶりに登場した警部は容疑者を引っ張っていた。

「違う。ウチじゃねえよ。おいコラ離せ」容疑者は暴れる。彼女なりの抵抗だった。「証拠を見せろよ、証拠を。どうせ探偵の足元にも及ばないような推理でウチが犯人だって決めつけてんだろ!」

「関係者でアリバイが無いのはお前だけだ。他の生徒は皆授業に出ていたからな。そして守衛さんが誰も出入りしていないと証言している。つまり内部の犯行だ。そうなると、必然的にお前しかいない」

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CzTS【3】

「あなたが犯人ですね」

 そう言って犯人を指すと、彼は一歩後ろに下がった。

「ち、違う。私は犯人じゃない!」

「しらばっくれんなよ」どすの利いた声で容疑者が犯人につかみかかる。「探偵がお前を犯人だって言ってんだ。お前が犯人に決まってんだろうが」

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CzTS【2】

「つまり、犯人はその漬物石を使うことでアリバイを作ったということです。ですよね、犯人さん?」いつものように探偵は人差し指を突き出した。

「いや、私じゃない。漬物石なんて誰でも持ってるはずだ」

「それはあなたの思い込みです。容疑者ちゃんのような若い子は、漬物石なんて持っていませんよ。そしてその思い込みこそ、あなたが犯人であることの揺るぎない証拠です」

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CzTS【1】

「違う。ウチは犯人じゃねえ。おいコラ離せ」容疑者は警部に連行されようとしていた。

「警部!」若い声が室内に乱入する。「彼女は犯人ではありません」

「探偵か。何の用だ」警部はまだ容疑者の手を離さない。「もう事件は解決したぞ」

「いいえ。解決なんてしていません。彼女は犯人ではない。ただの容疑者です」

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声のあるエレベーター

 愛用していたイヤホンを家に残して外に出たのは初めてだ。車が地上を走る音が、私の住む上層階にまで届くということを知った。エレベーターを待つ間、その他の自然の音に耳を傾ける。今までの私が聞くことのなかった音たちだ。

 「よし」

 一人で呟いて意気込む。

 肩のカバンを掛け直して、姿勢を正す。

 上がってきたエレベーターが開き、奥の壁に埋め込まれた姿見に私の全身が映る。主観的な判断だが、その顔に失恋の影は残っていなかった。傍目には、結婚まで考えていた彼氏と別れた直後だとは判らないはずだ。

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昨今の校庭事情

 窓際の席に座っている男子生徒が「犬だ!」と窓の外を指差して声を上げた。

 窓際の他の生徒も体ごと窓の方を向いて「ホントだ!」、「大きい!」などと騒ぎ始める。その声につられるようにして、教室内の人口密度は窓際に偏った。

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咄嗟の他人行儀

 電車が停車したことを体で感じ、ドアが開いたことを耳で知る。開いていた文庫本から一瞬だけ目を離し、窓ガラス越しにまだ降りる駅ではないことを確認。その目は再び文庫本に戻って文字を追う。

「もしかして、津村さん?」

 顔を上げると、数年前に別れた彼が立っていた。

「いいえ、違います」津村は咄嗟に否定してしまった。どうしていいかわからず、視線を落として本の世界に逃げる。

 しかし彼は「隣、いいですか?」ときいてきた。

 断る理由を持ち合わせていないので、津村は無言で頷いてしまう。

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その男、盲目につき

 早く食べ終わったので、何をするでもなく席に着いたままぼんやりしていると、トレイを持ったマキさんが視界に割り込んできた。

「やあ。ここ、いい?」

 僕が返事するより先に、マキさんは椅子を引いて向かいの席に座った。トレイの皿には野菜と果物しかない。

「ダイエットですか?」

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放棄した彼女を放置した僕

 今になって思えば、あれは初恋で、一目惚れに分類されるものだったのだろう。

 二年前の春。中学生から高校生に肩書きが変わった四月。初めは気もそぞろだったが、一週間もすれば中学校と変わらない雰囲気が形成された。そんな中、僕は一人の女子を意識するようになる。決して外見に魅かれたわけではない。それもそのはず。彼女はおしゃれ要素が皆無の、どこか古さを感じさせる丸メガネをかけていて、伸びるままに任せたような黒髪は手入れされている様子がなく、飾り気のないゴムでいつも後ろで束ねられていた。女子であることを放棄していると、僕は彼女を見て感じた。

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卵かけご飯の作り方

 母のペンが進まなくなった。

 兄は春から一人暮らしをする。そんな兄が一人でも自炊できるように、母はよく作る料理のレシピをノートにまとめて兄に持たせようと考えたのだそうだ。それには私も賛成した。兄は不器用ではない。作り方がわかれば、きっと上手くするはずだ。

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夜空に浮かぶ実家

 機内にいる人は皆、金持ちだと考えてよい。概ね人生において成功者に分類される人々だ。

 目的地は同じ。目的も同じ。

「失礼かもしれませんが、お仕事は何を?」私はたまたま隣合っただけで初対面にも関わらず、隣席の男性に話しかけた。「答えたくなければ構いません。私はアパレル関係の会社で、デザインをしています」

 機内で初めて会った人と言葉を交わすことは珍しくない。電子端末の持ち込みは禁止されているし、発射準備や安全確認に時間がかかるので、誰もが暇を持て余しているからだ。

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こいつが座って俺が立つまで

 今日の日替わりランチはヒレカツ定食だった。

「お疲れ様です」

 二人席の空いていた向かいに腰掛けてきたのは、同じ部署の後輩社員だった。

「お疲れ」

 軽く挨拶して、俺はメインのヒレカツ、その最後の一切れを、口の中に放り込む。

「いやー、気づけばもう今年も終わりですね。先輩は年末年始、どうされるんですか」

「俺は今年も神社かな」

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履歴で繋がるその路は

 決意表明のように連絡先から実家の番号は削除していたが、母からであろう着信履歴からいつでも連絡できる状態だった。

 何がしたいのか言わず強引に家を出た私が、心配で仕方ないのだろう。悪いとは思っているが、話せるような将来の展望を持っているわけではなかった。

 時間を持て余していたからか、冬の寒さと静けさが寂しさを助長させたのか、ただの気まぐれか、私はその履歴から実家にかけていた。

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