ビルドンブンコ

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言ってよ

 彼は私を愛してくれない。

 私は彼を愛しているし、彼もそれを受け入れてくれる。でも返してくれない。私に愛をくれない。見返りを求めて愛したわけじゃない。でも私の愛を受け入れておきながら私を愛してくれない彼が許容できない。だから今日も彼に言う。

「愛してるわ」と。

「ああ」

 彼はそれだけ言うと口を閉じた。

 どうしてそこで「俺も愛してる」と言ってくれないの。愛という言葉を口に出すのが恥ずかしいのなら「俺もだ」と頷くだけでもいいのに。私はただ彼も私を愛してくれている、相思相愛だという証拠が欲しい。「私のこと、どう思ってる?」だから私はきいてみた。

「好きだよ」

 彼はあっさり答えた。でもそんなのは知っている。好きじゃないとこんなに近くにいてくれないから。ただ、その好意に愛が含まれているのかをはっきりさせたい。

「どれくらい好き?」なんて、意地悪な質問だと自覚している。彼もこれにはすぐに答えてくれなかった。

 しばらく沈黙。私が彼の返事を諦めかけたそのとき、突然抱きしめられた。もちろん彼に。

「ねえ」私は口を開く。しかし言葉が続かない。愛してるから抱きしめてくれるんだよね、と。

 そして私は気が付いた。愛を口に出すことの滑稽さに。両親から愛してるなんて言われたことはない。でも、両親が私を愛してくれていることは明らかだ。きっと彼はこの滑稽さを知っていたに違いない。

 私も彼の背中に手を回した。

 ほら、言葉なんて必要なかった。彼が愛を返してくれなかったのではなく、私が彼の愛を受け入れていなかっただけなのだ。