ビルドンブンコ

趣味で書いた小説を保管する場所

できない思春期にいる私

 放課後の帰り道、改札を出たところで「ゆっきー」と後ろから抱きつかれる。クラスメイトの愛菜だ。

「もう、やめてよ愛菜」と口では嫌がりながらも、それを振りほどこうとしないゆっきー。

 私は愛菜が好きじゃない。そこまで仲良くなった覚えはないのに妙に馴れ馴れしい所が苦手だ。私と距離感が決定的に違う。

「一緒に帰ろ」という愛菜の提案に、ゆっきーは「いいよ」と頷いた。

 私なら断るけど、ゆっきーは嫌なそぶり一つ見せずに愛菜を受け入れてしまう。愛菜との仲が険悪になったところで、私の生活に影響はないと思うけれど、ゆっきーは何かを恐れているのだろうか。

 そこからの帰り道は、愛菜が一方的に喋って、ゆっきーは終始聞き役に徹していた。内容は女子高生らしいもの。もうすぐ定期試験なのに全然勉強してないだとか、誰と誰が付き合い始めたらしいとか、たわいもないことばかりだった。

 私にとってはくだらない、聞くに値しないことだったが、ゆっきーはまるで愛菜に気に入られようとしているかのように、程よい相槌や一言を添えて、愛菜の話に合わせている。愛菜の言う通りもうすぐ定期試験。私としてはさっさと一人で帰って勉強したいところだけど、一体ゆっきーは何を考えているのだろう。ゆっきーにとって、愛菜はそれほど大切にしなければいけない相手なのだろうか。

「ちょっと寄り道しようよ」という愛菜の一言にゆっきーが逆らうわけもなく、二人は大通りのファストフード店に入ることになった。

 私は頭を抱えたくなる。用事があるとかお金がないとか、いくらでも断る言い訳はできただろうに。ここで一緒に試験勉強しようということになればまだしも、することはさっきまでと同じ。愛菜が話してゆっきーが聞く。もちろん身のない話ばかり。それでも、気が付けばすっかり日が落ちて、外は真っ暗だった。

 流石に愛菜も話すことがなくなったようで、今日のところはさよならした。

 愛菜と別れた途端にどっと疲れが押し寄せて来る。ゆっきーは一人で溜息をもらした。私にとっては今更の溜息だ。

 そして帰路につく。

 

 

「みゆき? 帰って来たならただいまくらい言いなさいよ」

 ソファでバラエティ番組を見ていた母は、帰宅したみゆきに気づいてそう言った。

 しかしみゆきはそんな母に対して「うるさいな」とだけ言って自室へ行こうとする。

 どうしてここで素直にただいまと言えないのか、私は理解に苦しむ。ここで母に悪態をつくことで私に生じるメリットは何一つないからだ。みゆきは自分で自分の家の居心地を悪くしているようにしか思えない。いったいどういうつもりだろう。

「だいたい今何時だと思ってるの。さっさと晩御飯食べちゃいなさいよ」

「食べて来たからいらない」母の声を背中に受けつつ、しかしそちらを向くことをせず、みゆきはさっさとリビングを通り抜ける。

 言い方というものがあるだろう。母はみゆきのために夕食を用意してくれているのだ。それに対するお礼と謝罪くらいはするべきだし、外食の件も、友達に誘われたからとか、理由を添えれば母も少しは理解してくれそうなものなのに。

「なら連絡の一つくらい寄越しなさいよ。それにもうすぐ試験でしょ。寄り道してる暇があったら勉強したらどうなの」

「うるさいって言ってるでしょ!」みゆきは声を張り上げて、わざと大きな音を立てて扉を閉めた。

 うん、ごめん、今からするよ。と言えば済むのに。それに私だって、勉強しないといけないと思っているではないか。愛菜と別れて帰宅して、やっと勉強できると思っていたのに。

 みゆきが何に怒っているのか、私はわからない。自分で勝手にイライラしているだけではないか。少しだけ我慢すればもっと母と円滑に仲良くできるだろう。

 私は自室のベッドに飛び込んだ。

 仲良くしたいわけではない愛菜には愛想を振りまいて、私を大切に思ってくれている母には悪態を返して、私は一体何をしているのか。

 結局何もできていない。勉強する気分と時間はなくなるし、家の居心地は悪くなるし。

 私は私がわからない。

 みゆきが母にするように、ゆっきーが愛菜を突き放せれば。

 ゆっきーが愛菜にするように、みゆきが母と仲良くすれば。

 愛菜がみゆきと。

 母がゆっきーと。

 私をそう呼んでくれれば、もっと上手く生きられるだろうか。