ビルドンブンコ

趣味で書いた小説を保管する場所

メロンソーダでよろしいですね

 着々と客を捌く店員。

「次のお客様、どうぞー」

 呼ばれて前に出た客は注文カウンターのメニューの上で視線を泳がせる。

「この弾けるメロンソーダは何ですか?」客は尋ねた。

「何、とは?」

「他の店だとメロンソーダなんですけど、ここでは弾けるメロンソーダだったので」

「いえ、これはですね、その、他の店とは一味違うぞっていうのを、こう、名前でアピールしてるんです」

「この店オリジナルということですか」

「はい、そうです」店員はウンウンと頷く。何だか面倒な客だなと内心思っているのかもしれないが、店員と客という立場上、それを表に出すようなことはしていない。「メロンソーダになさいますか?」

「他のドリンクはメニュー名に弾けるみたいなの付いてませんが、オリジナルではないということでしょうか」

「いえ、そういうわけではありません」客が言ったオリジナルという言葉に安易に乗っかってしまったのを後悔するような苦い表情になる店員。「えー、これはですね、メロンソーダの炭酸を表現しております」

「ということは、他のドリンクは炭酸が抜けているということですか」

「いえ違います。そんなわけないですよね、お客様」

「どうしてですか。炭酸を表現したのが弾けるという言葉なら」客はメニューの炭酸飲料をひとまとめにして載せてある部分を囲むように指先を動かす。「この弾けるが付いていないものは炭酸が表現できてないです」

「いえ、表現どうこうではなくてですね、別に弾けるが付いてなくても、名前だけで一般的に炭酸だとわかるものですので」

「この店のメロンソーダは一般的ではないということですか」

「違います。当店のメロンソーダも一般的なメロンソーダになっております」マニュアルみたいな口調で店員は早口に言った。「メロンソーダでよろしいですね」

「弾けないメロンソーダはありますか」

「メロンソーダの炭酸抜きでよろしいですね!」とにかく注文を取ってこの客を相手するのから解放されたい、という感情が語尾の強さとなって現れたのだろうか。店員の言動が強引になっている。

「いえ、普通のメロンソーダをお願いします」

「かしこまりました。フードメニューはどうされますか」と店員はドリンクメニューを回収しようとしたのだが、客がそれを手で押さえる。

「その普通のメロンソーダは弾けるメロンソーダと別物ですか」

「同じものです」店員の口調から苛立ちが感じられる。

「じゃあこの店では普通のメロンソーダなのに弾けるメロンソーダと偽って提供しているということですか」

「そういうことではありません。単に炭酸であることを強調したネーミングなだけです」

「強調。誇大広告ですか」

「だからですね、この弾けるには特に意味はなくて、メロンソーダはメロンソーダなんですよ」

「弾けるメロン水ください」

「メロンソーダですね」再びドリンクメニューの回収にかかる店員。

「やはり、弾けるには炭酸という意味があるようですが」ドリンクメニューをしっかりとつかんで離さず客は言う。

「正直面倒でしたので弾けるメロン水をメロンソーダということにしましたが、そもそも当店にメロン水なんてないんですよ」店員はメニューの回収を諦めて手放す。そしてそれを指し示す。「ほら、ありませんよね、お客様」

「弾けるコーラはありますか」

「だから、そんなメニューはないんですよ。コーラになさいますか」

「ということは、メロンソーダはメニューにないということですか」

「いえ、メロンソーダはこちらになります」もう迂闊にその単語を口に出したくないのか、店員は弾けるメロンソーダを指で示すだけに留めた。

「でもさっきは弾けないメロンソーダは炭酸抜きで注文が通りましたよね」

「その、お客様の言葉から私ども店員の方で適宜判断させていただいております。メロンソーダを注文されましても、こちらの判断で弾けるメロンソーダを提供させていただいております。ですからお客様が言われました弾けないメロンソーダは、炭酸抜きだと判断しただけでございます。お客様の意図と異なっておりましたら誠に申し訳ございません」

 店員はとにかく頭を下げて勘弁願うことにしたらしい。

「わかりました。弾けるメロンソーダをお願いします」

「かしこまりました」頭を上げた店員はどこか晴れやかな表情をしている。嬉しそうにドリンクメニューを回収した。「フードメニューはどうなさいますか」

 客はフライドチキンを指差した。

「フライドチキンでよろしいですね」

「いえ、このこんがりフライド——」

「メロンソーダとフライドチキンでよろしいですね。番号札三番でお待ちください」

「いえ、弾けるメロンソーダとこんがりフライドチキンです」

「次のお客様、どうぞー!」