ビルドンブンコ

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期日迫りし悩める乙女

 彼の誕生日が目前に迫り、いよいよ万策尽きたので、思い切って訊いてみた。

 何か欲しいもの、ある?

「うーん、特にない」

 というわけで無駄でした。それどころかお前のセンスに任せる、期待してるって暗に言われた気がするのですが、余計にハードルが上がってませんか、気のせいですか。

 家族の誕生日は気恥ずかしくて何もしてこなかった親不孝者。ヘンナコ扱いされて誕生日を祝い合えるほど仲のいい友達もいなかった孤独人。初めてできた彼氏の誕生日にはしゃいでる浮かれポンチ。全て私のことだ。肩書きの多さにひれ伏すがいい。この肩書きが目に入らぬかあ!

 さてと。何かプレゼントを贈りたいという気持ちだけが先にあって、何をあげればいいのか、一向に決まらない。

 いい加減に日がない。あれやこれやと考えているうちに芽生えたのは、怒りではないと信じたい。

 欲しいものの一つくらいあるだろうに、特にないとか、あり得ない。それで私から全然見当はずれのプレゼントをもらっても喜んでくれるの? 使ってくれるの? 愛想笑いでありがとう嬉しいって言われて終わるんじゃないの? いっそ何もあげないでやろうか。いや、ここはちゃんとプレゼントして、それで私の誕生日が近くなって、今度は彼に欲しいものを訊かれたら言ってやるんだ。特にないって。そして今の私みたく悩めばいいさ。わっはっは。

 こんな具合で、いつの間にか、どうやって仕返しするかって、そんなことばかり考えてる私の昨今。

 むあー!

 両手で万歳。頭の中で絡まった毛玉よ飛んでけ。やめやめ。違うこと考えよう。読みかけのファッション雑誌があるじゃないか。

 いいな、可愛いな、こんな服とかバッグを彼がプレゼントしてくれたりしないかな。いや、ちょっと高すぎるかな。このマフラーとか、誕生日プレゼントによくない? 全然嬉しいよ。こんなのもらったら大喜びしちゃうよ。ああ、でもこっちが何もプレゼントしてないのに一方的にくれるわけないもんな。やっぱり何かあげないといけないよねって、違うこと考えれてない。

 閉じた雑誌をメンコみたいに机にバシッと。

 ソファでゲームしてた彼の背中がビクッと。

 驚かせてすみません。

 だいたい、この雑誌を見せて、これ! このマフラーが欲しい! なんて、がめつくて図々しい嫌な女だと思われてお別れってお分かり?

 分かるか。今は私じゃなくて彼の誕生日をどうするかを考えろよこの妄想駄洒落女。

 彼にも言えないだけで欲しいもの、あるのかな。

 お互い欲しいものを送り合えれば、いや、これが欲しいって言って、それをもらう。何だかそれは、自分の物欲を満たしてもらうために彼と付き合ってるみたいだ。

 あ、なんか、欲しいものを直接訊かれても答えられない理由、わかった気がする。というか、わかってたじゃん。

 お前のセンスに任せる、期待してる。

 そう言われたんだよ。最初から正解出てたよ。灯台下暗しとはこのことか。

 だったら見せるまでだ、私のセンスを。

 

 

 道を開けろ! ここは我らがデートするために作られた道だ。

 というわけで彼の誕生日当日。天気晴朗のためデート中。愛を堅牢にアップデート中。なんて、はああ、浮かれてるう。私の心の波高し。堅い牢屋で二人きりになりたい。逆に柔らかい牢屋って何だ?

 腕とか組んじゃって、くそう、ラブラブじゃないかこいつら。羨ましい。まあ私なんですけど。

 色々考えたんだけど、何をあげれば喜んでくれるかわからなくて、結局何も用意してない、ということだけ先に伝えておこう。

「いいよ別に。何もくれなくて」

 と言ってくれた優しい彼ですが、左様ですか、と引き下がらないのが優しい私。せっかくの誕生日なんだから、何かしてあげたい。というわけで、今からあなたの好きなところを言いますので、それを以って、誕生日プレゼントと代えさせて頂きます。つきましては、恥ずかしいので耳を私の口元まで近づけてもらえないでしょうか。

 彼は姿勢を下げるようにして、私の言う通りの体勢になった。よろしい。

 そして私はその言葉を口にするのだ。

 特にない。

 どうだ、思い知ったか。ここ数日間私を悩ませたそのセリフ、そっくりそのまま返してやったぜ。これが私のセンスだ。気が利いてるだろう。さてさて、どんな顔してるかな、ちょいと拝見。

 あれ? これは、ちょっと、思ってたのと違いますね。間違えたか。選択肢間違えたか。バッドエンドルート入っちゃったか。

 えっと……、冗談冗談。本当に好きなところ言うから、ほら、恥ずかしいから、先に、私の好きなところ、言って欲しいな。

「独り言が楽しいところ」

 えっ、出てる?

 熱い熱い顔が熱い。お返しのマフラーとかいらないくらい。

「マフラーだよね、了解。俺の誕生日のこと、色々考えてくれたみたいで、ありがとう」