ビルドンブンコ

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応援は必要ですか?

「先生は出なかったんですね」

「出ると思ってたの?」

 一昨日と昨日の二日間は、球技大会だった。数ある種目の中でもハンドボールは先生チームも出場し、毎年、どの先生が参加するのか、必ず一度はクラス内で話題に上がる。

「苦手そうですもんね、スポーツ」

「まあ、そうだね。特に球技は苦手だよ。左利きなのに、子供の頃は右利き用のグローブばかり使っていたから、どっちつかずになったんだろうね」先生は、右手で軽くボールを投げる仕草をして、もう一度、今度は左手で同じ動作をした。それから、納得いかなそうに首を傾げた。「ところで、君は何に出たの?」

「バドミントンです」

「バドミントン? あれって、球技なの? 球じゃなくて羽根だけど」

「羽根? そう呼んでる人もいますけど、私はシャトルって呼んでますよ」

「シャトルって、ロケットの? 最近は、何でもカタカナの名前になるね」

「先生が学生のときは、何に出てたんですか?」

「卓球。あれは、フィールドが狭いからね。球技大会の種目の中で、一番小ぢんまりした種目じゃないかな。球を相手側のテーブルに打ち込むだけだからね。サッカーみたいに走り回らなくていいし、野球みたいに、何メートルも投げなきゃいけないこともない。それに一対一、多くても二体二だから。多人数の競技って、自分が足を引っ張ってるような気になって、萎縮しちゃうよね。それでパフォーマンスも悪くなって、悪循環。一対一の方がのびのびできて楽しいよ」

「私もです」うんうんと私は頷いて同意した。

「僕が思うに、君も運動が得意じゃなさそうだけど、どうだったの、バドミントンは」

「駄目でした。もともと、一人一種目は絶対に出ないといけないからって、人数が足りてなかったバドミントンに仕方なく参加しただけでしたから」

 私のクラスには、バドミントン部の生徒はいなかったので、戦力が著しく低かったのだ。

「それは残念だったね」と言ってから、先生は小さく笑った。「でも、君が話したいのは負けたことじゃない」

「そうなんです」どうやら、先生は私に対する察しが良くなってきているようだ。「一回戦で負けたら、他の種目には出てない私みたいな人って、暇になるじゃないですか。だから私、図書室で本を読んで時間をつぶしてたんです。それで、全種目終わったころに教室に戻ったんです。そうしたら、どうしてサッカーの応援に来なかったんだって、責められたんです。どうやら、私以外のクラスメイトは全員、サッカーの決勝戦の応援に行ってたみたいで」

 サッカー以外の種目では決勝戦に進めなかったので、必然的に全員が応援に駆け付けられる状況になっていたわけだ。

「なるほど。それで、サッカーの決勝戦は、君のクラスが負けたんだ」

「そうなんです!」さすが先生。私が言いたいことなどお見通しに違いない。「私が応援に来てなかったからだ。他のみんなは来てたんだぞって、おかしくないですか?」

「理不尽だとは思うけど、おかしくはないかな」

「おかしいですよ! もし、相手のチームに応援がいて、自分たちのクラスのチームには応援が一人もいないとかならわかりますけど、私以外みんないたんですよ。一人いないくらいで、勝敗に影響するわけないじゃないですか」

「君が出たバドミントンの試合には、応援、来てた?」

「ええ、まあ、何人か」

「負けた時、どう思った?」

「仕方なく出たバドミントンでしたけど、わざわざ応援しに来てくれたクラスメイトには申し訳ないなって、思いました」

「それだよ。サッカーに出た人も同じように思ったんだ。でも、その中に君だけがいないことがわかった。さて、どうなる?」

「どうなるって……、別に、どうにも」

「球技大会というイベントで、決勝戦まで進んで、応援にもみんな駆けつけて、結果として負けてしまったけど、クラスが一体になった。と思いきや、一人足りなかった。君が責められてるのは、応援に行かなかったことじゃなくて、クラスの環から外れてることだよ」

 環から外れているという自覚は、確かにある。しかし、それを責められる覚えはない。

「まあ、外したのは誰だって話だけどね」

 その言葉を聞いて、先生に話して良かったと、改めて感じるのだった。